祝福

 僕の感触では回復のスピードが遅く、家族の方に申し訳ないなと会う度に思っていた。 勿論、本人にも申し訳ない気持ちでいっぱいで、僕自身がめげそうになるが、当人のほうが何百倍もつらいに決まっているから、懸命に知恵を絞っている。そうした中、家族の方に思いがけない言葉をもらった。「いつも母の話を聞いてくださってありがとうございます。先生のところに来て話をすると気分がとても楽になると言って喜んでいます」  何も不足がないような人だったが、やはり癌と言う病気は本人にとってはショックだったのだろう。それを現代医学のおかげで無事乗り超えたのに、不安はぬぐえないらしい。まるで別人のように体力も気力も衰えて相談に来た。そうしたトラブルに漢方薬は適している。役に立てる自信があるから引き受けたが、回復のスピードは僕の想像以下だった。本来もっていた美貌も、笑顔が消えたら、余計悲しげだ。僕はいつものように漢方薬と、何気ない、とるの足らない会話でお世話している。まったく笑顔が消えていたのに、今は僕のくだらない冗談によく反応してくれて笑顔も家族が認めてくれるくらい出だした。もうここまでくればしめたものといつもなら思えるのだが、今回はここでスピードダウンした。だから本人にも家族にも申し訳ないなと思ってしまう。それを知ってか知らないでか、お嬢さんが前述のような感謝の意を示してくれたので救われた。たかが薬剤師が抱えられる症状ではないのかもしれないが、たかが薬剤師だからかなりの同病の人を救うことが今まで出来た。願わくば、心の病気とちゃんと向き合って治すのではなく、斜に構えたまま不真面目に治ってほしいと思ってしまう。繊細や、品性や、努力や、知性や、本来備わっていることが祝福されるようなものが、刃を自分に向けているのだから。非力なくせに、そうした善良な人たちの役に立てたらと、田舎薬剤師だから思ってしまう。