人情

 町民待望のドラッグストアが今日牛窓にオープンした。商売敵であるはずの僕も待望していた。現代ではドラッグストアがない町は、ドラッグストアも来ない町と同義語で、取り残された町と言う解釈が成り立つ。その点で進出してくれたゴダイさんに感謝する。僕がまだ若かった頃、姫路に講演に行ったとき、ゴダイさんの社長に御自分の薬局を案内してもらった。その頃から倍々ゲームで大きくなったゴダイさんと、そのまんまの僕が、小さな町で相対するとは当時は思いもしなかった。確か社長は僕と同じ大学の先輩だったと思うから、天と地の差だ。ついでに言うと、天どころか、宇宙と地の差の人物がいてスギ薬局の社長とその夫人だ。二人は僕の1級先輩と1級後輩だ。同じ教室で学んで、どうしてこんなにも差が出るのだろう。いや、この言い方は正確ではない。僕は教室にはほとんどいなかった。もっぱら柳ヶ瀬のパチンコ屋と喫茶店で過ごしていた。  何でなのと言いたくなるようなことが、だから牛窓が好きと言いたくなるようなことが今日僕の薬局であった。開店セールに人が押し寄せているだろう時間帯に、僕の薬局はいつもと変わりなく淡々と仕事をこなしていたのだが、ある人はサロンパスを買いに、ある人はキンチョールを買いに、ある人はキャベジンを買いに来てくれた。恐らく我が家の仕入れ値より安いような値段で売っているはずなのに、平気な顔をして買いに来てくれる。さすがに漢方薬や込み入った病気相談の人は、僕の薬局を利用してくれると確信しているが、こんなどこにでもあるような薬まで買いに来てくれるのかと思うと感激ものだ。思わずゴダイさんを紹介しようかと思うくらいだが、そんなことは期待もしていないのだろう。田舎ならどこにでもある人情に久々に心を動かされた。