清水の舞台

 一度は行ってみたい街、倉敷。2度と行きたくない街、倉敷。
 誰が言い始めたのかけだし名言で、よく言い当てている。それでは、かに道楽はどうだ。一度は行ってみたいかに道楽。一度もいけないかに道楽。
僕が作ればこうなる。
 今日の5時ごろ僕はまさにかに道楽の前にいた。岡山駅近くである用事があったのだが、かに道楽の前に行くと僕がすることがある。ショーウインドウの前に立ち、食品サンプルと値段を物色すること。いつか食べに来るぞと思いながら、もう何年、何十年も叶えられていない。広い受付だけが道路からは見えて、肝心の店内が見えない。 カニ料理だから、ナイフとフォークは使わなくて済みそうだが、どんな様式かは全く外からはうかがい知れない。だから何となく敷居が高いような気がするのと、値段が高くてもったいないような気がするのだ。戦後の貧しさからやっと脱却したころに、その貧しさの真っ盛りを生きた親に育てられ、質素や倹約が身についてしまった。その名残は永久に付きまとい、身についてしまった価値観から脱出するのに苦労する。世の言う贅沢と、僕の贅沢は次元が違い、この歳になっても、大正の両親から受け継いだ金銭感覚に縛られてしまうのだ。
 一度勇気を出して、清水の舞台から飛び降りてみたいと思うのだが、岡山県に清水はない。

https://www.youtube.com/watch?v=K_FTE8I_Usk