見てすぐに口唇ヘルペスだと分かったから、それ用の塗薬を調剤室から取って来て、養生を伝えた。抗ウイルス作用の軟膏を出すことは誰にもできるが、養生法はさて。
１０秒もあれば養生法を伝えることは可能で、それを実践すれば早く良くなることも経験済みだ。女性は「ここに来たら色んなことを教えてもらえる」と言ってくれたが、そこまで褒めてもらうほどのことでもない。ただ、わざわざ僕の薬局を選んで来てくれるのだから、少しでも早く治っていただけるなら、簡単な助言など何度でもする。
でも本当は、「ここに来る人に色んなことを教えてもらった」なのだ。病気の標本みたいな人が毎日来てくれて、いろんな会話をして症状を具体的に学べた。おまけに勉強した知識を生かすチャンスもくれた。軽医療を半世紀近くやって来たのだから、相当な数の方のお世話をさせてもらった。ありふれたトラブルは勿論、滅多にお目にかかれないようなものもあり、知識は時間に比例して増えた。
また教えてもらったのは病気のことだけでなく、社会で起こり得ることの多くを教えられた。多種多様な職業人、多種多様な個性と遭遇したのだから、知識は自ずと増える。文字で伝えられる知識ではなく、五感をフル回転して得た知識だから身につく。
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