底力

 このさりげなく出る言葉が、なんとも関西人らしい。本人の深刻さは良くわかるが、こんな落ちを付けられたら笑顔で別れるしかない。
 6時半にシャッターを下ろすが、これから薬を作ってもらいに行くと連絡があったのが、丁度2時間前の4時半ごろ。2時間で来れるかなと思ったが、2週間に一度くらいの割合で来られるから、きっと間に合うように懸命に運転してくるのだろう。ただし、いくら遅くなっても僕は待つだけでいいのだから何の負担もない。特に僕は働くのが好きだから、ましてその時間帯に2時間かけてやってこようとするくらいだから余程深刻なことなのだと想像がつく。岡山から行くと兵庫県に入り新幹線で3つ目の街からわざわざ来るのだから、意地でも期待に沿わなければならない。そうしたプレッシャーはあるが、よく知っている夫婦だから、まずは無事に着いて、そして無事に帰ってに尽きる。僕なら新幹線の距離だが、ドライブ好きの夫婦には、ちょっとした買い物程度なのか。
 ある急性の皮膚病だったのだが、本来なら病院の薬で簡単に治る。ところがその薬が脳にまで侵入してしまう薬で、嘗て服用したときに気絶したトラウマがあるのだ。だからわざわざ皮膚科の診察受け処方してもらったのに、怖くて飲めないのだ。だからその薬と同じ目的のものを漢方薬で作ることになる。そのこと自体はそんなに難しいことではないので、良く休んでいただいた後調剤した。その時に出た言葉が、かの吉本を越える言葉だった。
 「私がこの手の薬を飲むと言うことは、治るか死ぬかのどっちかなんです」普通は効くか効かないかの二者択一だが、片や死ぬには笑えた。申し訳ないけれど「めちゃ受け」
 どこにでもいる普通の主婦が、薬局で症状を説明する普段の言葉が、こんなに人を笑わせる。関西文化の大いなる特徴だ。テレビに出ている馬鹿よりもよほど面白い。
 こんなに不幸に乗じて楽しませていただいたのだから、よほどの著効を出さないと釣り合わない。薬が効きやすいと言う大いなる長所も、度が過ぎれば死が見える。笑ってはいけない所で笑わせる、関西人の底力。

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