思いがけない所で、と言っても僕の薬局の中でだが、長い間意味がつかめなかった言葉の回答を得た。
たぶんテレビ番組かテレビ宣伝で耳にした言葉なのだろうが「かけ流し」と言う意味が今まで分からなかった。天然と頭についたりするから、温泉のことくらいは理解できていたが、それ以上は全くわからなかった。
２週間前に、お子さんの漢方薬を取りに来てくれた女性が、地名から温泉で有名な所の方だと分かっていた。前回来てくれた時には、腹痛で学校に行きたがらないお子さんの相談だったから、さすがに悠長にその土地のことを尋ねるなんてことは出来なかった。だから、期待に沿うべく一所懸命に問診し調剤しただけだ。
ところが今日は、この２週間でずいぶん楽になってくれたみたいでお母さんもなんだか緊張感が取れていた。だから僕も得意の無駄話が出来た。そこで長いこと悶々としていたその言葉の意味を尋ねてみた。するとさすがに詳しくて、「温泉を湯船に溜めて、消毒してまた循環させるのではなく、溢れたものはそのまま流してしまう」と教えてくれた。最近消毒を怠って病原菌が検出されたようなニュースもあったから、なるほどと頷けた。
その地の、ある温泉を特に勧めてくれて、そこの湯は確かに疲れが取れると、天然かけ流しは違うと力説されていた。風呂中りする僕はほとんど長湯の経験がないから全くピンとこないが、とても真面目そうな方だから、僕もその説は信じる。そもそも自然に勝るものはないのだから、言われてみれば当然と言えば当然だ。
偶然訪ねてきてくれて、漢方薬のお世話をさせていただいた。そうした偶然お会いする方でも時には師になる。５０年近く、ほぼ薬局の中で仕事をしてきたが、それでも幾ばくかの知識を積み重ねられたのは、こうした方々のお陰。良い口は持ってはいなかったが、良い耳は持っていたのかな。
