一発逆転

 看護師さんは、も?ハードワークだからなかなか心身ともに絶好調という日はないらしい。そのお手伝いをしている方が2週間毎の煎じ薬を取りに来た時にふと母親が亡くなったと漏らした。
 ご自分が勤めている施設に入所していたから、夜間電話がかかってきたからどうしたのかなと思っていたら、お母さんが亡くなったと言う連絡だったそうだ。
 実は30分くらい前に食事をして会話もしていたのに、急に亡くなったらしい。周りの方も気が付かなかったくらいだ。年齢を尋ねたら80歳を回っていた。僕の感想は「見事」だったから、そのまま口に出した。すると彼女も同意した。
 「死ねなくて苦しんでいる人がいっぱいいるんだからよかったね」と声をかけると、さすがに現場のプロで「そうした人ばっかりです」と言った。ご自分のお母さんがそちらに属さなかったから、後悔はないだろう。まさに永遠の眠りについただけなのだから。彼女が一般論で応えるのではなく、一人の娘として答えてくれたことで、過酷な現場の現実を知ることが出来たような気がする。
 出来ないことが毎日のように増え、喜びでさえ自制して過ごしてきた市井の人々に出来る華麗なる一発逆転は、これくらいしかない。

【森達也さん・「成功体験」ばかり語る人と食事したいですか? 「日本、スゴイ」に傾倒する社会の危うさ/歴史を学ぶのは失敗記憶するため】●8/8 The News スピンオフ● - YouTube