危うい

 偶然かもしれないが、2週間前に数人のアトピー皮膚炎の方をお世話した。お子さん以外の方には全員煎じ薬とある特殊な入浴剤を使って貰った。僕は皮膚炎を起こしている場所によって漢方薬を使い分けるが、この煎じ薬だけは皆さん共通している。
 2週間経ってその方々が薬を取りに来られているが、「ものすごく」効いたと表現された方が3人いる。2週間で成人の症状を軽快させるのは難しいが、僕が見てもきれいになったとすぐにわかるほど変化していただいた。
 もうずいぶん長い年数、アトピー漢方薬を飲んでくれている女性に、そのことを話すと手をたたいて喜んでくれた。本当に反射的にたたいてくれた。僕は軽快の事実を女性に話したのは、自慢話でも何かを売りつけるためではない。なぜ煎じ薬が嫌なのか、入浴剤を使わないのか知りたかっただけだ。もし二つとも利用できればもっともっと快適になってもらえるからと思ったのだ。
 彼女によると、煎じ薬の臭いが受け付けられずに飲めない、風呂に入ると蕁麻疹が出るからシャワーで済ますと言うことだった。時に臭いに敏感な方がいて、煎じ薬が飲めない方がいる。風呂に入ると蕁麻疹が出る人に風呂に入ってと言うわけにはいかない。残念だが、無理強いすることはできない。今まで通りなるべく粉薬で煎じ薬の効果に迫れるようにするだけだ。
 それにしても彼女が他人の症状改善で手をたたいて喜んでくれたことには驚いた。僕は予期せぬ行動だったので「僕は自分(あなた)に治ってもらって、自分のために手をたたいて喜んでほしい」とお願いした。それにしてもハッとするくらい美しい瞬間だった。ご両親からのお付き合いだから10年以上彼女とも接しているが、なんて心の美しいお子さんを残されたのだろうとご両親を思い出した。
 一部の恵まれた階層の人以外は、総じて厳しい日常を過ごしていると思う。傍から見ていて一見何の心配もなさそうにそれなりの消費活動を行っている人も多いが、実際には危なっかしいものだ。いつ就職先が倒産するかもしれないし、いつ病気になるかもしれないし、いつ天災に見舞われるかもしれない。再起不能に陥る機会なんてここかしこに潜んでいる。
 「危ういものだ」これが僕がいつも感じているこの国の人たちの置かれている状況だ。その中での思い切りの親切や優しさや、勇気や、謙遜。本来人が備えなければならない心を持ち合わせている人に出会うと、今日のように感激してしまう。いつか彼女のために僕が手をたたきたい。

 

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