藤公園

 「主人は今日友達と、藤を見に行っています」とさりげなく奥さんが言ったが、一瞬ピンとこなかった。まさかあの藤の花ではないだろうと思いながら念のために尋ねたのだが、まさかが当たっていた。
 この辺りで藤と言えば和気だから「和気の藤公園に行っているの?」と尋ねるとまさにそこだった。
 僕は10年以上通っているが、藤の花を愛でるためではない。野外ステージで和太鼓の競演があるから、欠かさず行っている。藤棚の下で写真を撮ったこともないし、10秒以上直視したこともない。むしろ僕は公園のそばを流れている小川のせせらぎの音の方が興味を惹かれる。だから藤棚に背を向けて、川を眺めていることが多い。
 どう見ても僕より花など縁がないように見えるのに、花を見にわざわざ行ったことが、にわかには信じられなかった。ただし、そのニュースは僕にはとてもうれしいニュースなのだ。80を回った男同士で片道50分くらいの所に出かけた決断が嬉しいのだ。夕方からは肩で息をするくらいの体調不良ががんの手術後続いていたから、感性を呼び起こし、肉体を鼓舞して行動に移したことが嬉しい。
 看病でうつうつとしていた奥さんも今日は笑顔だった。歳を重ねるにしたがって自然の生き物や植物に、ようやく興味を持てるようになるのはそれこそ自然なのか。まだまだ自然入門編の僕でも、男友達を誘って花を見に行けるようになるのだろうか?

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