階級

 何処でそういった経験をしたのかわからないが、話を聞いているだけで怒りと空しさが交錯した。
 日本が過去20年間で落ちぶれている間に、東南アジアの国々は発展して、かなり生活水準が上がった・・・筈だから、フィリピンも随分発展して、みんなの生活水準が上がったのだろうなと僕が知ったかぶりをした。すると、息子が教えてくれた。
 街中を高級車が走っているからどんな金持ちが住んでいるのだろうと驚くことはあるが、しかしそれはいわゆる一部の上流階級の人達で、その他は総じてまだまだ貧しいのだそうだ。フィリピンでは、上流階級と下層階級が交わることがないそうで、いつまでたっても、金持ちは金持ちで、その他はその他らしい。例えば100人くらいの集まりがあるとしても、決して金持ちとその他が混ざって腰掛けることはないそうで、どんな場所でも階級に分かれるそうだ。もし這い上がれるとしたら、何かの商売が当たるくらいのチャンスしかないと言っていた。
 えらいことに詳しいなと思ったが「それじゃあ、自分が向こうに行った時には、どちらの席に腰掛けるの?」と尋ねてみたかったが止めた。どうせその他だろうから。そしてそれは僕にとっては望むことだから。

 


倫理観も夢も失った官僚達 古賀茂明
 かなり前から、霞が関の若手官僚が次々に退職して行くことが話題になっている。その原因について、幹部職員の不祥事、長時間の無報酬での残業など職場のブラック化、低い給与水準、スキルアップ機会の欠如などが挙げられている。
 これを前提に各省庁は、残業時間縮減や国会業務の効率化などの対策を少しずつ進めているが、私から見ると、残念ながら、ピント外れだ。
 実は、最近、それをあらためて強く感じることがあった。それは、私が幹部候補の中堅官僚2人に匿名を条件に取材した時のことだ。この2人は、省庁の利権などには目もくれず、タブーなく改革を進めようとする志の高い官僚たちだ。
 彼らへの覆面インタビューで、私は、近畿財務局の職員で、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)の指示で公文書改ざんという犯罪行為を強要され、後に自殺に追い込まれた赤木俊夫さんのことを取り上げた。私の質問は、財務省では多くの人がかかわっていたのに、何故誰も異論を唱えなかったのか、官僚の倫理観はどうなっているのかというものだった。私が予想したのは、安倍晋三総理(当時)の進退に直接かかわる重大局面で、通常とは違った特殊な圧力を感じて、迷いはあったが、最後はやむにやまれずやってしまったのだろうというような回答だったが、彼らの答えは違った。
 こんなことは日常茶飯事だというのだ。
霞が関では幹部クラスが皆、事務次官や大臣、官邸、声の大きい有力議員の方を向いて仕事をしていて、しかもその内容が政治家や役所の利益のためのものである場合が非常に多いが、公僕意識が希薄化し、まっとうな倫理観に反することでも、それを止める力が働きにくくなってしまった。安倍政権で特徴的なのは、仕事の内容が国民のためになっているのかなどと考えたり議論すること自体がなくなったことだ。今や、おかしいと思っても、部下たちが声を上げることなどほとんど考えられないという。稀にそういうことを試みても、周囲から冷たい目で見られた上に議論さえされず、何もなかったかのようにスルーされてしまうから、どうにもならない。幹部から、官邸に逆らうようなことはするなとあらかじめ釘を刺されることさえ経験したというから驚きだ。
この2人の官僚は、霞が関は絶望的だとためらいなく証言した。
「残業とか安月給などは承知のうえで官僚になった。それでも、国民のためになる大きな仕事ができれば、やりがいがあると思って官僚を続けて来たが、今や、そんなことは夢のまた夢。どこにも希望が見えない」と途方に暮れる。
若手官僚の中でも大志を抱く人ほど現実との落差を強く感じ、優秀な人ほど先を見て辞めて行く。もはや、若手に対して、国のために頑張ろうというのは、白々しくて口にすることができないという。
 この話を聞くと、霞が関改革の議論の中心が職場のホワイト化というのでは、全くピント外れだということがよくわかる。
 一番大事なのは、国民のための政治が行われ、官僚がそのために働ける環境の整備だ。霞が関再生には、党利党略で動く政治家、省庁利権にまみれ自己保身に走る幹部官僚の一掃から始めるしかない。
週刊朝日  2023年1月6-13合併号

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