遠回り

 薬局の前に駐車した車の種類で、この方が人生の成功者だと分かった。ただ相談内容は気の毒なものだった。症状に至る理由が悲しすぎた。
 漢方薬を作って養生などを述べた後、相手が素性を述べられた。幼い時にかすかな接点はあったかもしれないが面影はない。ほんの数10メートルのところで二人とも育っていたのに。
 僕より7歳年上の方だから一緒に遊ぶようなことはなかっただろうが、当時我が家に住み込みで働いてくれていた女性の名前はハッキリ覚えていてくれた。男性は僕の二人の姉の真ん中あたりの年齢だと思う。男だから一緒に遊んだ記憶がなかったのだろう、姉たちの名前よりお手伝いさんの名前を憶えていてくれた。
 ぜひその方の不快症状をとってあげようと決意したのは、その方のお母さんが僕の母の大のお友達だったからだ。当然と言えば当然だが、名前を教えてくれてそのことが分かった。
 母の世代の人はほとんど休日などはなく、ただひたすら仕事や家事にいそしんでいた。そうした時間の間を見つけてよくおしゃべりしていた。近所づきあいだからと言うのではなく気が合っていたみたいで、遺言で葬式に出席してほしい人の名前を上げていた数少ない人の中の一人だ。余程大切な人だったのだと思う。ただ、順番が違って願いはかなわなかったが、そうした方のお子さんだからどうしても恩返しがしたかった。運のいいことに、漢方薬がうってつけの症状で、大いなる恩返しができるものだ。案の定2週間後の今日来られて、相談してくれた不快症状のすべてが出なかったみたいだ。
 牛窓を出られて、何十年。インターネットで僕の薬局に行きついたみたいだが、たった数10メートルしか離れていなかったのに人生で初めて会話したと思う。これこそが縁と言うものなのだろうか。60年、遠回りしてたどり着くなんて。
 母の顔とその方のお母さんの顔が目を閉じればはっきりと浮かぶ。二人して男性を僕の前に遣わしたのかな。墓石の前でしか語りかけない親不孝者に「少しは思い出せと!」

 

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