一言

 2年前から、胃をぎゅっとつかまれたような痛みに襲われ、あまりの痛さに体を丸くしてベッドの上で耐える。痛みはみぞおちからおへその両側に移動して収まってくれる。
病院でいただいている薬はブスコパン タケキャップ トランコロン イソプリド塩酸塩 エクセラーゼ
それでも全く効果がないから、お医者さんに悪いと思いながら相談にやって来た。
僕が疑問に思ったのは、タケキャップを飲んで効かない胃の病気があるのか?と言うことと、タケキャップを中学生にそんなに飲ませて大丈夫なのかと言う2点だった。
前者はプロトンポンプインヒビターの切れ味鋭い効果を見せつけられてきたせい(おかげ)。そのせい(おかげ)で逆流性食道炎漢方薬を作る機会が減った。後者はプロトンポンプインフィビターが痴呆を呼びよせたり癌の発症にかかわると言う論文を見かけることによる。もっと低次元に言うと「中学生で胃酸の分泌を抑えていいんか?」と言う素朴な疑問。
 実は僕が作った漢方薬は胃とは全く関係ないもの。どう考えても胃のトラブルとは思えなかった。僕はかしこまった問診などめったにしないが、この子の症状をつかむにはかなりの会話を要した。幸い、お母さんもお子さんもとても好感が持てる田舎の人だったので、雑談から決定的なヒントを導き出すことが出来た。その一言が無かったら僕もお医者さんと同じ轍を踏んで胃の漢方薬を出していただろう。その一言は「金曜日の夜が一番症状が激しくなる」
 ここまで書いてきて一つ反省。「田舎の人」は良くないな。僕の住む牛窓がそもそも人口数千人の田舎。彼女が住むのは〇〇市のはずれで畑とブドウ畑ばかり。人影もまばら。牛窓が都会に見えるくらいのところだからつい使ってしまった。本当は「素朴な人」が適語だろう。
 ちなみに彼女は2週間分を2回取りに来て、この2週間は一度も痛みがなかった。最初に漢方薬を出すときに伝えていてよかった。「治ったら先生のおかげと言って、感謝の意を伝えてね。間違っても漢方薬で治ったなどと言わないでね。これからの関係が崩れるよ」と。
 田舎の人の役に立てれるのは嬉しい。都会のすべてが整ったところでなくても「治るのだから」
 また言ってしまった。「素朴な人の役」に立てるのは嬉しい。