出来事

 「明治時代じゃったら、簡単に変えれたんじゃけどな」と教えてくれた老人はもちろん明治の人ではない。昭和一桁だが、まだまだしっかりしている。
 顔を見たことはあるが、名前を尋ねて珍しい名前だったから、予期せぬ面白い会話ができた。実は本当の名前は、僕もよく知っている名前で、昔からそこの地区には多い名前だった。マスク越しでしかも歯がないから正確に伝わらなかっただけのことだ。ただこの聞こえにくさがそのあとの面白い話の導火線になった。
 老人の名前は、かつてその地区によくある名前から、もうひとつの良くある名前に変わったと言う。そして変わった後、元に戻そうとしても戻らなかったと言う落ちがついていた。しかもその落ちは、実際に「落ちた」ことが原因らしいから、話が面白くなる。
 老人の名字が変わったのは、いや変えたのは、ある出来事だった。その不運な出来事は養子に行って名前を変えたからだと家族中が口を揃えたらしい。そこで元の名字に戻そうとしたのだが、親類中の同意や判子が必要らしくて、その煩雑さで諦めたらしい。そこで出た言葉が「明治時代じゃったら簡単に変えられた」だ。
 さてその不運な出来事とは・・・トイレに、いや当時だったら、トイレと表現するような代物ではないな。便所?厠?に落ちたことだそうだ。

https://www.youtube.com/watch?v=C0K3EpXZ-Fs