帰国

 本来なら6月に帰国できるはずだった女性が、急遽帰国できることになった。今夜お別れの挨拶をしに行ったのだが、その時に急展開の理由を教えてもらった。
 おばあさんが倒れて寝たきりになったとベトナム大使館に訴えると、優先的に飛行機に乗せてもらうことができるようになったらしい。この話をしている輪の中に、帰国待機組の7人のうちの一人がいたから、知恵を授けた。
 「〇〇ちゃんもおじいさんが倒れたことにしたら?」「オジイサン シンダ」「だったらおばあさんにしたら?」「オバアサン シンダ」「だったら仕方ないから、お父さんに倒れてもらったら?」「オトウイサン(この場合は僕のこと)ワルイヒト ウソ ダメ」
 そうかそこまでして帰りたくはないのか。日本の昭和初期か大正時代かと言うくらい家族のきずなが強いから、全員が帰国したがるが、嘘まで言って帰りたくはないのか。
 このアイデアを教えてくれた僕の友人はしばしばこの手を使っていた。そして首切り同然のように役所を追われた時には言われたらしい「〇〇、お前のおじいさんは何回死ぬんじゃ」