好奇心

 別に聞き耳を立てて聞いていたわけでもないが、あまりにも二人の声が大きかったからすべて聞こえた。僕の職業とかぶる話題だったので割って入ってやろうかと思うくらいだ。もちろん休日の午後、牛窓を離れているのだからその解放感を、求められてもいないおせっかいで自爆させたくはないが。
 ひょっとしたら僕より二回りくらい若いのではと思う。でもその男性の口から出てくるのは体の不調ばかり。不調と言ってもさすがに若いから内臓のトラブルではなく、骨格系だ。これまたまだ早いと思うのだが、結構傷めているらしくて相手の男性に日々のつらさを訴えていた。その箇所が結構、多岐に及んでいて首、肩、手首、足首、腰。ほかに傷めるところがあるのかと探したくなるほど「全部」だ。凝りを通り越して頭痛がする上半身。立っているのがつらくなるほどの下半身。過酷なスポーツ選手かと思わせる傷みようだが、中肉中背でスポーツとはどちらかと言うと縁遠そうだ。
 この若さでどうしてここまで痛みのトラブルに苦しめられるのだろうと、職業的な好奇心が沸いてきた。何か類推できるようなキーワードが出てこないかなと思った矢先出てきた。なんと「ケーキ屋さん」らしいのだ。ケーキ屋さんでそこまで傷めるのと不思議に思っていたら、友人らしき相手にぼやいていた。朝の5時から夜の11時まで働くらしい。よくわからないが「仕込み」のために早朝から働くらしい。逆に何のために夜11時まで働くのかは分からなかった。
 恐らく長時間立ちっぱなしだから、それも作業をしながらだから関節を傷めるのだろう。そして「修行中は先輩、店を持ってからは従業員に気ばかり使っている」と言っていた。ストレスで筋肉の緊張の度合いも強くなるがそのことを言っていたのだと思う。
 子供の夢のケーキ屋さんがそこまで体を酷使しているとは思わなかった。あの美味しいケーキは「体の痛みに担保」されていたのか。僕も働く時間の長さには自信はあったが、上には上がいるものだ。彼の苦労に比べれば・・・と申し訳ないが、僕は彼の正直な嘆きっぷりに勇気をもらったような気がした。