引退

 車で1時間くらいかかるところから若い女性が漢方の相談に来た。問診を始めてすぐに、何を改善してほしくて来たのかすぐわかった。ただそれだけでは薬の精度が上がらないから、周辺情報を集める。その作業中に、入り口まで行かなければならないことが起こり、中座して店頭まで行った。すると1台の車がエンジンをかけたまま駐車場に止まっているのを見つけた。それですぐに女性が誰かに乗せてもらってきたことを知った。
 いつものペースで事を運んでいたのだが、気が付いていればもっと迅速にできたのにと申し訳ない気持ちになった。そこで女性に謝った。「気が付かなくてごめんね」と。そして次のように続けた。「急いで薬を作るから、間違ってもゴメンネ」
 漢方薬の扱いはおそらく漢方薬局より多いが、僕の目指しているのは漢方薬局ではない。僕が目指しているのは、思わず笑いがこぼれる薬局。笑うときの脱力ほど健康に良いだろうモノを知らない。今思いついたが、笑いながらスポーツをすると、体は鍛えられ、気持ちは緩みで、最高かもしれない。
 話を戻して、どんな方が来ても、それが処方箋を持ってくる人でも、OTCを買いに来る人でも、漢方相談に来る人でも、思わず笑ってしまう会話を心がけている。提供するものが病院の薬でも、サロンパスでも、漢方薬でも、日常の緊張が取れなければ自律神経も血流も免疫も、ガタガタだろう。
 遠路訪ねてきてくれた若い女性も、何回も笑顔を見せてくれた。この笑顔のために「引退できない」のだと思う。