一昨日、漢方薬の注文メールをくださった女性は「めっきり寒くなりましたね」と言うようなあいさつで文章を始めていた。
 その時は岡山県はまだ暖かかったので「そうですね」とは答えにくかった。それなのに一晩寝ると、まさにその言葉しか思い浮かばないような朝だった。北陸から下りてきた寒気が岡山の空を覆ったのかどうかわからないが、その日、女性の挨拶が何度も頭に蘇ってきた。そうですねと適当に言葉を選ぶことは出来るが、僕にはできなかった。
 メールや電話の向こうで、みんなが懸命に生きていることがうかがわれる。そうした現場と少しずつ疎遠になってきている僕には、そうした状況が輝いて見える。もちろん多くの困難を抱えながら暮らしているのだろうが、その困難さえ羨ましく見えてしまう。不幸と呼ばれない程度の困難は日常に緊張感をもたらしてくれ、凡人を製作者や表現者にしてくれる。何気ない文章や言葉が、僕には市井に咲く花のように思える。