価値

 昼過ぎに、分包機越しに妻がまじまじと僕を見つめた。僕の顔ではなくもう少し視線は下を見ていた。そして言った。「お父さん、それパジャマじゃないの?」
 その瞬間全てがわかった。昨夜風呂に入る前に服を探していたら、引き出しからこの時季に着ればいいような服が出てきた。長袖の服があまりないから、こんなところにあったのだと儲けたような気持になった。僕は肌触りがよくないと着ることができないタイプだから、柔らかくて肌に自然になじむ感触がすぐに気に入った。
 僕は白衣をはだけて着るから、前は全部出ている。ズボンはポケットがいろいろなところについているのが好きだから、ほとんど職人が履くようなものをいつも履いている。上はパジャマ、下は職人ズボン。薬局に来る方にとっては、いつもの格好だ。ただ、見る人が見ればわかるらしくて妻は見抜いた。と言うか自分で買ったものだから当然わかるだろう。僕は指摘された瞬間、一昨年検査入院で川崎病院に持って行ったパジャマだと気が付いた。だから一夜限りのパジャマで僕はそれ以来目にしていなかったから気が付かなかったのだ。
 人様の目より僕自身の心地よさ。これが一番大切。パジャマで漢方薬の相談に乗っても「効きゃあええじゃろう」余分なところで付加価値はつけない。思えば牛窓に帰ってきてよかった。こんなに自由にできるのだから。その自由で得られる付加価値こそ、目的化されなかった、本当の価値だ。