同級生

 もう20年くらい前になるだろうか、薬剤師会の招きであるお医者さんが講演をした。そのことはよくある話で珍しいことではない。ただ、そのお医者さんが妻と同級生だと当時教えられた。中学校の同級生らしい。昔から優秀だったらしいが、その後医学部に行ったあたりまでは知っていた。偶然薬剤師会が招いたことでその医者さんの勤務先がわかって、やはりエリートコースを歩んでいるんだと感心していた。妻の友人が当時そのお医者さんに好意を持っていたらしいが、当然叶わない恋だったのだろう。
 昨日、ある総合病院から薬局宛の小雑誌が届いた。季刊号のようで時折届けられるから興味を引いたところだけ目を通す。昨日の小雑誌の見開きに、その病院の院長先生が大きく載っていた。髪は白いがかなりの部分もう生えていない。顔には深い皺が刻まれ、瞼ももうかなり垂れ下がっている。ネクタイをきちっと締め、糊付けでとんがりそうな白衣を着てカメラに向かって微笑んでいる。年のころなら70歳代中盤。下手をすると僕より一回りは大きそうだ。さすがに大病院の院長先生だけあって、品に溢れている。
 院長挨拶と言うタイトルの下に大きな写真。院長先生のあいさつ文が載っていた。何気なくい読んでいたら、かつて教えられた同級生の名前と似ていることに気がついた。早速妻に尋ねてみたら同じ名前だった。そこで写真を見てもらうと、やはりかつての面影があるみたいで、間違いないと言っていた。
 これには僕も驚いた。老けると言ってもここまで老けるかと言うレベルだった。どう見ても僕と同じ歳には見えない。勉強に費やした時間の長さ、患者に対峙した時の使命感、高級料亭での食事、上流階級との付き合い、僕には全く縁のないものばかりだから、これ以上想像できないのだ。恐らくそうした恵まれた才能の持ち主だけが体験できることが逆にプレッシャーだったのかもしれない。
 知能も学歴も経歴も肩書きも、全てが劣っている僕のほうが見た目は圧倒的に若い。あれだけのものを手にする代償が、あの老け様だったら僕は何も要らない。無気力な表情でいい。分相応、頭がない分、見た目くらいは勝たせて欲しい。