同世代

 日が落ちてからその男性は入ってきた。外も暗いがその男性の服装も表情も暗い。髪はばさばさで腰は曲がっている。夜中に何度も、大袈裟なのかもしれないが1時間毎くらいに、おしっこに起きると言っていた。もしそうなら寝た気がしないだろう。通常2回までなら正常だが、1時間ごととなるとさすがに治療の段階に入っている。病院で治療していたらしいが埒が明かずにやってきたのだろう。
 今日はその薬についての話ではない。一通りの問診をし、薬を渡してからおもむろにその男性が口を開いた。それまでは何かのらりくらりと返事をする程度だったのに、急に向こうが話しかけてきた。「バレーはまだしてるの?」その瞬間僕は気がついた。その男性は僕より10歳は年上に見えるが、何となく昔バレーをしていた頃対戦相手のチームの要で活躍していた人ではないかと思っていたのだ。ところがその人は僕と同じ年だったはずだから、似ているだけと思っていたのだ。しかしバレーの話を突然切り出せると言うことは正に彼なのだ。だとしたらあまりにも年老いている。僕も先の検査で内臓もまた骨格と同じように衰えていたことが判明したが、彼の場合は見るからに年老いていた。どうしたら人はここまで老けれるのかと考えさせられるほどだった。
 薬剤師根性と言うより、同世代の反面教師として興味があった。そこでどういう風に暮らしているのか尋ねてみた。するとよくある、典型的な自爆攻撃だ。絵に描いたくらいの自爆だ。過食による糖尿まっしぐら。酒とタバコ。重い物を持つ。ガン家系。それに病気の数だけ飲まされている薬の量。これだけ条件が揃えば活性酸素に体の外も中も攻撃されて、一回り以上老けることが出来る。既に2人のお兄さんをガンで亡くしているのに、それらのすべてを止めない兵だが、これだけ老ければ兵も見る影がない。「いくらなんでも老けすぎだろう」と言ってあげれないほど老けていた。