岡山県貨物

 僕の薬局はクロネコヤマトを利用している。理由はいくつかある。地元に営業所があり、働いている人の中に牛窓の人が多い・・こうして考えてみると意外と理由は少ない。たいした理由ではないが、これらを越える理由も見当たらないから今のままで行くつもりだ。  薬局で使っていた印刷機がリースの期限が来たので返還しなければならなくなった。こちらの負担で大阪の処理施設に送り返さなければならない。130kgととても重いから業者に頼むことにした。毎日クロネコヤマトは来てくれるから配達を依頼した。運転手さんは、それだけ大きいと引越しの担当になると教えてくれた。早速引越しの係りに連絡すると、精密機械は扱いをやめて、運送業者を紹介すると言われた。その手の業者を知らない僕は助かった。程なく業者から連絡が入って運賃の見積もりが4万7000円だと教えてくれた。僕は驚いてその数字をオウム返しで叫んでしまった。相手も慣れているのか、驚きを理解してくれて、クロネコを通しているからそのような値段になると説明してくれた。そう言われると誰もが同じ質問をすると思うが「クロネコを通さなくてお宅に直接依頼したらいくらになりますか?」と尋ねると、これまた誰もが答えるように「そうした依頼は受けられないのです」とやんわりと丁寧に拒否された。対応してくれた人たちは皆親切で丁寧な方ばかりだったが、予想をはるかに越える金額だったから答えを保留した。  こうなれば他を探してみようと珍しく僕としては行動を起こした。そこで、これまた配送にやってくるオカケンと言う業者の運転手に尋ねてみた。彼は早速会社に連絡してくれて、女性から連絡が入ってきた。ところがこの女性が、まるで近所のおばさんの様な喋り方をする。とても客に話しているような言葉遣いではない。そして僕の依頼内容を確認すると専門の係りに代わってくれた。ところがこれもまた、担当の若い男性が丁寧な喋りに慣れてないのかとてもぎこちない応対だった。途中でもういいと言って電話を切りたいくらいだった。ただ、4万7000円に抵抗を感じていたので耐えた。そしてその忍耐のおかげで、僕は3万7000円も倹約できたのだ。同じ所に同じ条件で運ぶのに片や4万7000円、片や9800円。この驚くべき差は何だ。  そして先ほどオカケンの車が我が家の倉庫に横付けされた。依頼して2日目だから早い。電話の時には土曜日になると言っていたのだが。そしてまたまた来た。大きなトラックから降りてきた僕より年上に見える運転者が「ここでええんかな?(こちらの依頼ですか?)」もうトリプルだ。こちらも慣れてしまったから、どうにでもしてくれと言うところだ。ところがこの男性、手際がとてもよくて、またトラックの装備もそういった用途の為に出来ているのか、なんとあの130kgもあるものをものの数分でトラックの荷台に積んだ。娘とともに見ていたが、感心するばかりだった。  昔は岡山県貨物と言う運送会社だったが、今は名前を変えてオカケンだ。ただ名前を変えても僕らが昔から馴染んでいる岡山県貨物と同じだ。牛窓出身の運転手も沢山いて馴染みの人が多かったが、全国展開の大手運送会社の陰に隠れてよくも潰れないなと心配になるような会社だ。それがしぶとく生き残っているのは、不器用な社員達の「誠実」のおかげではないかと思えた。規模や知名度、何をとっても勝てそうにないローカルな会社が潰れずに残っているのは、僕の薬局に重なる。僕の薬局もまた、力はないがせめて誠実であることだけは公言できる。  浮いた3万7000円は勿論和太鼓のチケット代にまわす。明日かの国に2人帰り交代で3人やってくる。20人分くらい和太鼓コンサートのチケットが買える筈だ。オカケンさんありがとう。