回答

 「オトウサン ナンサイデスカ?」と尋ねられたから「64歳」と答えると、かの国の若い女性は悲しそうな顔をした。僕は瞬間的に彼女の心を読み取ることが出来た。残酷な答えをしてしまった。うそを承知で50歳くらいに、いや40歳でもよかったかな、要はさばを読んでいればよかったのだ。ただそんなに機転が利くタイプではないのでつい本当のことを答えてしまった。 寮には現在18人のかの国の女性がいるが、いったいその中で両親がそろっているのは何人だろう。最近では、恐ろしくてそのことを尋ねることが出来なくなった。意図的に尋ねたことはないが、話の内容から、両親がそろっている人が少ないように思えるのだ。20歳から30過ぎまでの年齢層だから、親は僕の年齢の前後にほとんど納まっているはずだ。ところがそれでも片親の人が多い。どちらかと言うと父親がいない方が多いような気がするが。  興味があるから色々調べたり、直接彼女達から聞いた話を総合すると、かの国の男性は、あまり仕事に熱心ではなく、昼間からカフェでコーヒーを飲んでたむろしたり、タバコをよく吸い、酒もよく飲む。おまけにこれは僕の勘だが、紫外線も強い。だからガンや、いわゆる循環器系の病気で若くして亡くなる人が多いのだ。と言うことは、僕ら日本人よりかなり外見も内面も老けているはずだ。ひょっとしたら20才くらい老けて見えるかもしれない。男性のほとんどが愛煙家ならその副流煙を吸う家族はもっと危険だ。男性と比べて向上心が強いと言われている女性がそんなことの犠牲になるのは気の毒だ。  冒頭の女性は、父親は既に50歳代で亡くなり、母親は僕より2歳だけ年上なのだそうだ。ところが僕よりはるかに年上に見えることが哀れだったのだ。6人を育てたと言うから苦労も並大抵ではなかっただろう。そうしたダメージも重なって、老化を早めていることは想像できる。僕が「ごめんね、若く見えて」と言ったのは冗談ではなく本心だったのだ。他の女性達が気を使ったのではないだろうが「ニホンジン ワカイ」と口々に言ったのもまた本心なのだ。  成長を遂げた国から、遅れてくる人達を見れば多くの回答を持ちあわせているが、その逆も多いことを僕は肝に銘じている。