推敲

 こんなものを見せられていいのかと思ったが、たっての願いだから預かって帰った。  来日して半年経った頃、思えば一度相談を受けていた。教会で知り合った女性で、日本人の男性に恋をしたらしい。ただ、会社が厳しくて、そうした関係になるとすぐに国に帰らされるのを知っていたから、友人関係を望んでいたが、当然本心は恋人になりたかったのだ。決して外見は美人ではなく、むしろその逆だが、内面は僕は滅多にお目にかかれないくらい素晴らしい女性だと思っていた。だからそれに気が付いてさえもらえれば、恋は成就すると思っていたが、結局その後2年間何も進展はなかったみたいだ。ただ、半年後に帰国することになった今、僕に彼に手渡す手紙の推敲を頼んだくらいだから、未練を断ち切れないのだろう。  手紙を読むのも気恥ずかしくなると思っていたが、内容はそうした予想を翻して、謙虚なものだった。愛とか恋とかと言う文言はなく、友人関係を望み、帰国した後、彼女の国に遊びに来てください。そうしたら喜んで案内しますと言うものだった。ただ、職場でもっと話しかけて欲しかったと、また私を好ましく思っていなかったのでしょうかと言う問いかけには心が痛んだ。  要は一方通行の恋だったのだろう。その男性に恋人がいるかもしれないし、どの女性にも興味を持っていないかもしれない。だからこんな未練がましいいことはしないほうがいい・・・・とは言えない。恋心はあの世代には特権だ。誰も許されるものだ。実らないのが世の常で、実ればラッキーくらいに構えることが出来るようになるにはまだ若すぎる。  日本語1級試験を受けるレベルの女性だから、結局何処も訂正するところはなかった。そのまま郵送で返したが、なんらこの分野では貢献できない。僕は「日本の文化の紹介」と「日常の楽しい会話」に限っての貢献に絞っている。言い換えると、感動と笑いだ。僕がかの国の女性達から頂いているそれらの倍返しだ。