無謀

 集中治療室からやっと出てこれたばかりなのに、お母さんのために漢方薬を作ってと頼まれた。症状を聞いてとても僕がお世話できるようなものでないことはすぐに分かった。命が危なかったのに、僕に出る幕はない。それでもなおかつ食い下がって何か作ってと言われたが、そんな無責任なことは出来ない。  その後2週間位して、退院したからとお嬢さんがお母さんを連れてきた。3人で話していたときに、母を思うお嬢さんの心がとても強いことに気がついた。だからあの無謀にも思える要望が口から出たのだろう。無茶な要望だが、その理由はとても愛情深い母娘の関係だったんだとよくわかった。時にこのようにお嬢さんとお母さんの関係が深い光景に巡り合う。ただし、それは多数派のようには思えない。逆の関係のほうも含めて、淡々とした関係の方が圧倒的に多いような気がする。  それはいいことか悪いことか僕には分からない。人は皆、無いものねだりだから、逆の対場にあこがれるが、逆になればなったで息苦しさもそれなりにあるのだろう。だから結局は当人同士の関係が収まるべくして収まった所なのだろうと理解している。子供の自立を何で測るか、手持ちの秤で違ってくるから一般論がなかなか通用しない。  今正に嘗ての秩序が崩壊して、混沌の時代に入っていることを感じる。新しい秩序が何処に収まるのか分からないが、気がついたら元の木阿弥のような危険性はある。そのほうが為政者にとって都合がよかったのを奴等は覚えているから。何しろ、貧乏人を飛行機で軍艦に体当たりさせることすら出来た奴等だから、その味は忘れられないだろう。他人の命を合法的に奪える快感たるや想像を絶するのだろう。  母を思う子の本当の力で、奴等の欺瞞をあぶりだして欲しい。