金属

 「それじゃあ、自分は鉄か亜鉛か?」これはちょっとかの国の、それも通訳じゃない女性には難しかったみたいだ。皆きょとんとしていた。  昨日の京都の土産話をする二人を囲んで数人で話をしていた。僕は京都観光の間に、英語とフランス語とドイツ語は察知できたのだが、かの国の女性達は「中国人と韓国人とタイ人が一杯、〇〇〇人は3人だけ会った」と言っていた。少なくとも母国語以外に3ヶ国語を聞き分けていたことになる。〇〇〇人とタイ人の見分けがつくのかと不思議だが、それには理由があることがその後の会話で分かった。  そうした伏線があったからだと思うが、話の途中で突然通訳が「日本は1つの民族ですね」と尋ねた。当然一つと言う答えを予想していたみたいだったが僕は二つと答えた。アイヌの人達がいるから二つだと答えると驚いていた。僕の浅い知識で簡単な説明をしたら分かってくれたみたいだが、そこから発展して自国での民族の数を教えてくれた。彼女は少数民族という日本語も知っていた。かの国にはその少数民族が50数個あるらしい。そして一番多い人口の民族は「キン族」らしい。そして彼女が「ワタシハ キンゾクデス」と言ったから「鉄か亜鉛か」と高級な洒落で返したのだ。  寮には18人いるがその中でキン族は16人で、1人はタイ族、もう1人はなにやら族と教えてくれた。タイ族はその名前の通りタイ国境に近い人達でタイ語を話すらしい。そこで気になることがある。「少数民族を差別したりしないの?」と尋ねると「昔はあったけれど今はない」と教えてくれた。確かに寮のその2人の少数民族の人達ともとても仲良く暮らしている。若い人には関係ないだろう。銅か錫か知らないが、屈託のない笑い声が響く寮の中に、世の指導者と言われるやつらがもっとも恐れる光景が広がっている。