移住

 たまに個人医院の処方箋で両手では収まらない数の薬が処方されるのを見ることはあるが、公立の病院の処方箋でここまで多いのはめったに見ない。内科と外科を同じ日に受診したからここまで増えたのだろうが、よくもこれだけ薬を出されて飲みきれるものだと思う。薬と言う名の化学薬品をここまで体内に入れれるものかと感心する。人間の解毒能力の高さに驚くし、これもひょっとしたら進化と言えるものなのかと考えを巡らせる。  遺伝要素があったのかどうか知らないが、一つだけ確かなことは自業自得だってことだ。まるで養生などしない。体にいいことは精神は勿論肉体的なこともしない。その代わり、体に悪いことは歯止めがない。社会に対して悪いことを一切しないから、それはそれでいいのだが、こうした自業自得の清算にも税金が使われるのだから、健康お宅の人たちにとっては歯がゆいだろう。  その患者が、昨日面白いことを言った。いつものように、誰かのせいに、何かのせいに自分の不健康をした後に「それでも、沖縄に行った時は全然足が痛くならずに、若いときみたいに歩けたんよ」と言った。外科であれだけ薬をもらい、飲んだり貼ったり塗ったりしているのに、全く効果はない。それなのに沖縄の気候は瞬く間に治してくれたそうだ。  この冬自分が苦しんだせいで意識することが多かったからか、痛みの病気をお世話することが多かった。痛みを理解できるから気持ちが入り、仕事としては評価できるが、こと自分のことになると、動きを制限せざるを得ないことがとても歯がゆかった。寒さで筋肉が硬直している事が分かり、春だったらとか夏だったらとか、ないものねだりもしたくなった。そんな折に不真面目な患者さんがふと漏らした言葉がとても印象に残った。  そうか、温暖を通り越した場所に行けば、体の痛みはかなり軽減されるのだ。今はやりの鎮痛剤がまったく効かない痛みでも、忘れることが出来るくらい消えるのだ。これは多くの痛みを抱えている人には朗報だ。この先何処まで悪化し不自由になるのだろうと心配したり覚悟したりしている人には救いだ。そのためには沖縄移住だ。いや、もっと南だともっと楽になるのだろうか。となると僕にとってはやはり移住先は「かの国だ」。沖縄よりはるかに知った人が多い。エイサーをとるか、娘達をとるか。いや腰痛をとるんだった。