集中力

 なんだかひどく新鮮だった。  僕は理性がない人は苦手だから、まだ理性が整わない子供も苦手だ。だから小学校などに行ってもなんら心は動かない。与えられた任務をこなすだけで淡々として帰ってくる。勿論、その任務に私情ははさまないから、質を落とすわけではない。  ところが今日1年ぶりに牛窓のある小学校を訪ねたときに、自分でも不思議な感覚に襲われた。教室の空気の汚染を調べる定期検査に行ったのだが、指定された1年生教室を訪ねたときに、子供達がひどく熱心に勉強している姿を見た。先生の指導の声や生徒達が懸命に唱和する声などが教室から手に取るように聞こえてくる。時折機械を持って教室内にお邪魔するのだが、僕を目で追う子供達が少なかった。僕の記憶では毎回、空気検査の為に授業を邪魔するのではと小さくなって行動してきたように思うのだが、今日の子供達は気を散らすことはなかった。小さな椅子に腰掛け、一所懸命に前を見ている姿はとても好感を持てた。可愛いと言う表現ではなく、しっかりしていた。こんな幼い子が、45分集中力を切らさずに勉強をするんだと、驚きに似たような感覚だった。美しいといってもよいかもしれない。そして僕自身が、もう一度勉強してみたいと思った。あんなにいやだった勉強が、とても楽しいもののように映った。この年齢になって、あんな幼い子供達に触発されてどうするんだってところだが、今日の光景はそんなことまで考えさせるものだった。今でも目をつむればその時の廊下から見た光景が目に浮かぶ。  そう言えばこの数年、授業中に廊下を徘徊する子供達を見なくなった。数年前までは学校を訪ねるたびにそうした子供達を見た。僕らの時代にはなかった光景だから驚いたが、頭をひねりながらそれ以上の追求はしなかった。何か理由があってのことだと思うが、こうして見なくなったのも何か理由があってのことなのだろう。ともあれ、のどかな田舎の学校には全く似合わない光景が消えたのだから喜ばしいことだ。明日から3校を順番に回る。同じような感動に浸りたいものだ。