牛窓西小学校

 一酸化炭素の検知管を教室に設置してから出て、三階の廊下から外の景色を眺めていた。牛窓だからと言って全て海が見えるわけではなく、西小学校からは申し訳ない程度にしか見えない。ふと下に目をやると白い大きなウサギが廊下に沿って作られた細長い庭をはねていた。教室3個分の長さの庭だから幅2メートルくらいと言っても結構な空間だ。最初は小屋から逃げ出したと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。走っていった逆の方に又帰っていって、小屋の中に自分で入っていったから。すると今度は白にネズミ色の斑模様のウサギ2匹が出てきた。同じように少し跳ねては止まりを繰り返し遊んでいた。 ウサギは勿論僕の存在を知らない。はるか3階から見られているとは思わないだろう。ウサギと人間の交流がどの程度親密なものか知らないから、彼らの僕に対する警戒心などが想像できないが、無邪気に跳ねるウサギたちがとても可愛く見えた。静かに進行している授業との対比がとても興味深かった。授業が終わると子供達がウサギを抱くのだろうか。それとももう慣れてしまってお互いがお互いであり続けるのだろうか。  教室を見て回った後、1階に下りるとさっきのウサギの空間に柵がないことが分かった。養護の先生に尋ねると、そんなものが無くてもそのエリアから逃走などしないのだそうだ。満ち足りた生活なのだろうか。決まって与えられる餌の魅力なのだろうか。近くで見たら結構可愛い顔をしている。そしておとなしい。なくのかなかないのか知らないが、これなら邪魔にはならずに、好感を持たれるだろうなと思った。 ところで僕はウサギ族に謝らなければならないことがある。長い間誤解していたのだが何となく最近分かってきたのだ。分かるのに何十年要したのだろう。唱歌の「ふるさと」を歌うたびに僕はウサギを食べていたのだ。「ウサギ美味し」と歌い続けていたのだ。まさかウサギを追っていたとは。僕ら海辺の人間には分からない。