補助教員

 テレビで見ていただけで、実際に目にしたのは初めてだ。でもいいシステムだと素直に思った。 学校薬剤師という肩書きを持っているので年に数回町内の学校を訪ねる。最近よく目にした光景が授業中なのに生徒が勝手に、それこそ自由に教室を出入りする姿だった。昔人間の僕にとっては信じられない光景だが、いわゆる学級崩壊という奴だろうと思っていた。  ところが今年すでに3校回ったが、その様な光景は見られなかった。寧ろ学校が静まりかえっているような印象すら受けた。廊下の窓ガラス越しに全ての教室を覗いたが、子供達は一様に静かに黒板の方を向いていた。この変化は何だろうと漠然と思っていたのだがその答えが今日分かった。  ある教室に入っていったとき、既知の女性に会った。僕もびっくりしたが向こうも驚いた様子で「今ここで働いているんですよ」と言った。授業中なのに死語は大丈夫かと思ったが、そこは牛窓、張りつめた空気とは無縁だからニコニコしながら話しかけてくる。さすがに僕は部外者だからそれ以上は会話を繋がせないようにしたが、後で同行してくれていた養護の先生が「補助教員なんです」と教えてくれた。これがあの新しい(?)システムなんだと感心ひとしきりだ。その効果はてきめんで授業の能率が上がっているのは教室に入った瞬間から分かった。いや、廊下を歩いていただけでも分かったのだから大したものだ。 似合わないことを言うが、教育的立場からしても嬉しかったが、違う意味でも実はとても嬉しかったのだ。実はその女性には20年前に漢方薬を1年半くらい飲んでもらったのだ。そのおかげで赤ちゃんができたのだが、彼女のご主人とスポーツで親しかった縁でどんなことがあっても無事出産までこぎ着けて欲しかった。だから妊娠が分かってから念のため教員を辞めてもらったのだ。彼女も余り迷いはなかったのか、すぐにその様に行動してくれた。おかげで今はもう大学生と高校生の母親になっているが、以来何となく仕事を辞めてもらったのが正解だったのかどうか思い出しては自問することがあった。時々薬局に来るからその根っからの人の良さに懸念は忘れさせてもらっていたが、今日形は違っても教室に復帰している姿を見て嬉しかった。両方(お子さんと教職)を手にしてもらえたんだと勝手に納得した。  ニュースを見れば沈滞した世相の垂れ流しだが、地味でもなかなか心温まるシステムも導入されているのだとほっとした。