同伴者

 僕にはその若い女性が薬局に入ってきたときから、何か心の問題を抱えている事が分かった。お腹の処方箋を持ってきたのだが、お腹は単なる代償でしかないと思った。そのことをその女性にも説明して、勇気を持って対処してもらうように心がけた。  夕食を食べながら息子にそのことを話すと、ある薬でお腹の調子がよくなったので、今回は漢方薬にしたと言っていた。なるほど処方した漢方薬はお腹だけではなく自律神経にも効くから、なかなかいい処方だと思ったが、その女性の憂いを秘めた表情までは治す事が出来ないだろうと思った。と言うより、その女性が何かストレスを抱えているという僕の言葉を不思議そうに聞いていた。消化器内科が専門だから、その女性のお腹の症状を治してあげれば本人は達成感があるのだろうが、僕は女性が望んでいるのはその上のクラスだと思った。僕の患者さんではないから具体的に質問することを躊躇った。そのせいで確実な処方提起も、本人に助言も満足に出来なかったが、次回、処方箋を持ってきたら詳しく話を聞いて、最善の漢方薬が処方されるようにしてあげようと思った。  僕はその女性を見た瞬間から、多くの人に大切にされ、多くの人を大切に出来る人だと思った。何ともいえぬ優しさが表情に表れている。本来的に備わったものだろう。恐らくそれが災いして心を痛める出来事に遭遇したのだろうが、それだからこそ心も身体もより元気になって欲しいと思った。薬局に専門はない。ただ30年も人を見続けてくれば、色々なことが分かり出す。処方も浮かぶが、その人の戻るべきところも見える。幸せが似合う人、幸せになる権利を備えている人、そうした人が脱落したときに一緒に戻ることが出来る、その時だけの同伴者になりたいと思う今日この頃だ。