寛容

 こちらの話に耳を傾けているのかどうか分からない。自分が思ったことを、それこそ間をおきながら、それも異様に長い間をおきながら喋る。笑顔は全く出なかった。相談に来た割には熱意が感じられない。症状や不安を教えてくれれば処方を決めることが出来るのだけれど、のらりくらりと会話が成立しない。やる気が無いように見えるが、帰らない。結局は10日分漢方薬を持って帰った。後味の悪い時間だった。運よくこうした不快な応対はめったに僕には無い。牛窓人の人柄なのだろうか。ところが最近は、牛窓以外の人が半分以上になったから、気質が違う人が時に紛れ込む。想像もしないような人物が時に来る。慣れていない分、気分がどんよりと落ち込む。  もう2度と会わないだろうと思ったのに、再びやって来た。漢方薬が効果を発揮したらしい。前回と同じ内容のものを取りに来たのだけれど、前回同様、焦点は絞れない。ところがある言葉を漏らしたのを聞いて、それで彼の態度の由来が全て理解できた。苦しみを背負い、懸命に生きているのだ。自分に降り注いだ苦しみではなく、一番大切な人に降りかかった不幸で彼は苦しんでいるのだ。だからたとえ薬局に来ても、完全な精神状態で完璧な意思疎通が出来るはずがない。心はその大切な人のところにいつも預けていたのだ。片時も開放されること無く。  最初に会ったときに、まるで馬鹿にされているのかと思って不快感を感じた。若いときほど鋭い感情ではないが、それでも不愉快だった。その態度の原因らしきものが分かって、恥ずかしかった。少しでも取り乱したことを恥じた。医者ほどではないが、薬剤師もかなりの寛容さが要求される。まだまだそれが足りないことを教えてくれた事例だった。わが心とわが体を何処まで差し出せるか、常に問われている。