玉野市東児町上山坂

 たったそのことだけで人柄と言うか、土地柄と言うか、間柄と言うか、絵柄と言うか、大柄と言うか、鶏がらと言うか・・がよくわかる。  母がお世話になっている老健施設の傍は、野球のグランドになっていて、日曜日には少年野球が練習に使っている。ただ時間によっては人影がなく、広いグランドに僕と母だけのこともあり、贅沢な時間を過ごすことができる。  先週の日曜日は横浜から姉が訪ねてきてくれたから、長い時間グランドの傍の駐車場にある木の下で時間をつぶした。僕と母なら交わす言葉は散発もいいところだが、さすがに姉となら会話になっている。僕はそれをいいことにアスレチック広場で遊んだり、小さな丘に登って景色を楽しんだりしていた。 施設に入るにはいちいち鍵を職員にあけてもらわないといけないから、グラウンドでトイレを探した。今まで死角になっていたところに見つけて使ってみることにした。大体がこうしたところのトイレは汚くて、使うに耐えれないのだが、いちいち鍵を開けてもらうは面倒だから、グラウンドのトイレを使うほうを選択した。ところがトイレに入ってみて驚いた。まず、ゴミが一切ない。トイレの黄ばみもないし臭いもない。タオルがかかり石鹸が用意されていた。グラウンドの隅にあるトイレのようにはとても思われなかった。悪趣味かもしれないが、これでくもの巣が張っていなければ完璧だと思い目を凝らして天井辺りを見回すと、さすがに少しだけくもの巣は張っていた。でも大きなくもの巣ではなく、目を凝らさなければ見えない程度だった。  たったこれだけのことだが、たいしたものだと思った。もともとそのあたりは昔から少年野球が盛んなところだが(いとこが指導していた)作法まで教えていたのか、それとも熱心な親たちが感謝の意をこめてきれいにしているのか。僕も幼い頃、母の実家に預けられて野山で遊びまわっていて、多くの人情に触れた域地だから、濃密な共同体がなせる業なのだろうか。僕の精神構造に大いなる影響を与えてくれた土地が、今も昔も変わらずに良質なままであってくれることがとても嬉しかった。