壮観

 えっ?何かいいことあるの?思わず口にしたのだが、こんな時しか、楽しい想像はできないので、強引なこじ付けでわが身を慰める。  夕方の4時頃、妻が二階から降りてきて、僕を薬局の前につれて出た。そして上を見るように言った。すると建物から1メートルくらい離れた電線にツバメがいっぱい止まっていた。そしてなんとツバメが止まっている電線は1本だけだった。建物を出てまず見上げたのが東側だったのだが、およその勘で20匹くらいが並んで止まっているのが見えた。それだけでも壮観だったのだが、そのまま見上げながら視線を電線に沿って西側にずらしていくと、それは目が太陽に入ることも示すが、まぶしさと戦いながら見ると西側に圧倒的多数が止まっていた。こんな光景は見たことがなかったので、すぐに僕は姪に写真を撮るように頼んだ。そして電線の真下をうろうろするとツバメが怖がって逃げていくのではないかと思い、少し離れた駐車場に移動した。そこはさっきの電線が、電信柱から電信柱まですべて見通すことが出来る。そして興味がわいたのでツバメの数を数えてみた。すると106羽いた。途中で飛んで来たのも見たから実際はもう少し多かったかもしれないが、僕にとって具体的な数字は意味を持たない。「たくさんのツバメが・・・」でいいのだ。  思えば今年は、ツバメの巣がカラスにずいぶん初期の段階で襲われるのを許した。卵をカラスに食べられたのだ。例年なら、それでも懲りずにツバメは挑戦するのだが、今年は我が家の巣での子作りは諦めたようだった。それなりに工夫して巣を守ろうとしたのに失敗したので、どこか申し訳なかったような気持ちで過ごしていたが、こうして106羽の大群が頭上の電線に整列して別れを言ってくれたのは意外だったので、とても嬉しくて感動した。まるで心が通じ合っているような気持ちになった。  からすとの格闘で負け越しているかもしれないが、願わくば来年も挑戦させて欲しい。「なにかいいことがありそうな」そんな気持ちになれる様なものは他に僕にはない。経済の欲望、権力の乱用、襲い来る天災。死ぬべきやつらが栄え、善良な普通の人々が命を落とす。ツバメにでも救われないとやってはおれない。