居場所

見たことがある穏やかな顔をした女性がテレビのインタビューに答えていた。夜のニュース番組だったがローカルな話題の時間帯だった。7月10日を岡山県牛窓産 冬瓜の日と制定することが決まったらしい。その記念式典の様子だったが、初めて知った。地元の人間でもわからないのだから、よほど広報をがんばらないと全国的な知名度は獲得できないだろう。微力ながら協力しようと思ったが、さて何が出来るやら。 いつのころからだろう、夏になると農家の方がお礼に冬瓜を持ってきてくれるようになった。当初は我流の味付けで食べていたから、美味しいとは思わなかった。いやむしろ苦手だった。ところが漢方薬の研究会の新年会などでちゃんとしたところで出てくる冬瓜は品がありとても美味しかった。京料理に使われ人気があると農家の方が教えてくれたがそれもうなづけた。出荷ももっぱら京都方面だと聞いていた。  ところが数年前から冬瓜専門のスープが売られ始めて、まるでホテルで出てくるのと同じ味で食べられるようになった。そこからは明らかに僕の評価は逆転した。いわゆる大人の味に変身した。牛窓にいながら京料理のほんの一端が味わえることになった。 報道によると出荷は全国3位らしい。なかなかベスト3など生まれる町ではないからたいしたものだ。そしてそれよりもうれしかったのは、冬瓜を出荷している農家の数が60戸ということだった。僕は食べ物の消費地より生産地のほうが好きだ。1次産業に従事している人の働いている姿が好きだ。だから冬瓜だけでも60戸の方が従事しているのはうれしかった。もっともっと知名度を上げて若い人がUターンして跡を継いでくれたらと思う。 手付かずの畑が山に帰っているのを牛窓でもよく見かける。人間関係に悩む人が土によって癒されるのをよく耳にする。居場所を変えてみるだけで救われる人も多いのではと、放置された田畑を見るたびに思う。