大事

 悪く言うつもりはないが、医者も尊敬できる人ばかりではない。もっともクラシック音楽の世界も先端医療の分野も嘘だらけだから、政治の嘘ほどそれは危険ではないが、営業にばかり注力している医者がいても、結構多いが、不思議ではない。  この女性は下肢が痛いという相談でやって来た。体重は言わなかったが相当ある。息づかいが荒かったので、その時点で処方はすぐ浮かんでいたが、念のため糖尿について質問してみた。すると治療中なのに、食後血糖値は200近くあり、ヘモグロビンA1Cは8台だった。医者はなんと言っているのと尋ねると、何年も同じ薬をくれるだけだと言っていた。「門前の薬局は何か言った?」と尋ねても、ただ薬をくれるだけだと言った。そこで糖尿病の煎じ薬もついでに飲むことを勧めたが、美味しくないのは嫌だと断られた。あまりの「ほったらかしにされ過ぎ」が気の毒になって「僕が忠告したことだけは覚えていて」と強く言って、念のため1日分だけ煎じ薬をプレゼントした。どうせ美味しくないと文句を言うのが落ちだと思っていたら、翌日飲むと言ってきた。そこで最初の足の痛みの粉薬と糖尿の煎じ薬を2週間飲んでもらえることになった。  一昨日丁度2週間目にやって来て、足の痛みは9割くらい治ったそうだ。息切れもしていなかった。少し役に立てたから、ついでに医者に糖尿の薬を再考してもらうように助言しておいた。門前薬局は医者の下請けだから、患者にとって不都合があっても医者の機嫌を損ねることを避ける方を無意識に優先してしまう。当然のことだ。僕もその様な営業形態を取れば同じことをすることが分かっているから今まで避けてきたし、これからも自由に仕事が出来るスタンスを崩さないつもりだ。娘夫婦も同じ考えだから安心している。世の中で分業が始まった頃、ある老人に言われた言葉が僕をそうさせた。 「薬局言うもんは、医者が大事なんか、患者が大事なんか?」