果実

 彼女は電話で、職場でがす漏れが原因で人に迷惑をかけていると悩んでいた。陰口もたたかれているとも言っていた。仕事時間や休憩時間もいつもそのことが気になって、どちらも集中出来ていなかった。全ての行動や思考がそのことを中心に回り、どれだけ生活の質を落としていただろうかと想像に難くない。数日前に漢方薬の注文を受けたときに「おならが出そうになる時に一瞬過去のことを思い出すけれど、すぐ忘れます」と言っていた。数値で示せば、もう95%くらい改善していると思う。いやもう完治宣言してもいいと僕は思うが、本人はまだ長い過去のトラウマからそれはしないのだろう。でも1日の内で、何秒か頭を過ぎるだけだろうから、日常生活に対する影響は限りなく0に近い。  10ヶ月間、電話で月に2回ずつ話をしたが、おとなしい性格のようには感じたが、彼女にはがす漏れを治し生活を立て直したいという強い意志があった。漢方薬を飲みさえすれば治るなんて安易な考えではなく、漢方薬を飲んで治すという意志があった。言葉で表せば似ているが実際はかなり違う。受け身と能動ではまったく行き着くところが違うのだ。果実は能動でしか得られない。  治るから治すへの転換は、なにも過敏性腸症候群の人だけのものではない。食べれて、出せれて、眠れれば、後は如何に生活の質を立て直すかだ。その為に現代薬も漢方薬も存在する。目的は病気を治すことではなく、如何に内容の濃い、喜びに満ちた日々を暮らすかだ。与えられる偶然を待つのではなく、漢方薬を利用して質の良い日々を掴んで欲しい。