関係

 片手を思いっきり天に伸ばして、「こんなに大きく成長するんじゃ、2メートル以上あると思う」薬を取りに来たおじいさんが牛窓では聞いたことがないような植物を育てていると言うから、薬の説明はそっちのけで話を聞いた。この辺りは畑どころで、白菜やキャベツ、カボチャや冬瓜など結構重量野菜が有名だ。だから耳慣れない名前が一体何のことか分からなかった。確かおじいさんは鉞(まさかり)、いや草刈り、いやうっかり、いや赤刈り、いや間借り、そうだユーカリを育てていると言った。薬を取りに来た理由が疲労だったから、如何にユーカリの世話が大変かを語ってくれたのだが、「ひょっとしてコアラの餌になるユーカリ?」と尋ねると、まさにそうだと言う。それも神戸の動物園と契約して栽培しているらしいのだ。 コアラが食べる部分は、ユーカリの先っぽの所だけらしくて、背丈が高く育つ植物の世話は、老人には大変なのだろう。ところが経営面ではとても安定しているらしくて、やりがいが伝わってくる。なんでも、ユーカリは風や湿気を嫌うらしくて、瀬戸内の温暖さが適しているらしい。働き者のおじいさんと、都会の有名な動物園との密かな関わりがなぜか僕は嬉しかった。同じような感動がもっと量産されたらいいのにと思って、牛窓の名産になったらいいねと言うとおじいさんは少しトーンを落として、コアラが輸出禁止になって、もう日本の動物園には新しく入ってこない、それどころか今、日本で飼育されているコアラはもう歳をとって繁殖する能力がないというのだ。すなわちこれ以上は減ることはあっても増えないと教えてくれた。なんとも寂しげな表情だった。いつからユーカリの契約栽培をしていたのか知らないが、何となくいつかやってくる縁が切れる日を覚悟しているようにも見えた。  これは一つのエピソードだが、色々な人が色々な関係の中で生きているんだと、そしてその関係の中でお互い満たされて生きているんだと、とるに足らない発見かもしれないが・・・嬉しかった。