出来事

「わしは、どう見ても88歳には見えんじゃろう!」と意気揚々というおじいさんに、それも薬局に客としてきている人に、「88歳に見える」と答えられる薬剤師は、日本広しと言っても僕だけかもしれない。
 おじいさんには気の毒だが、日焼けした顔にしわだらけで、腰も曲がりかけている。これで「えっ!88歳?そんなには見えないですね。70代かと思った」と言わせたかったのだろうが、僕はおべんちゃらは決して言わない。ましてその男性のように、理不尽な要求をする人間の相手をする暇も気力も余力もない。
 入ってくるなり病院でもらったであろう薬を出して「この薬を飲むと胸やけが止まって、幸せないい気分になる。これを頂戴」と言ったのだが、その薬は言わゆる処方箋薬で、売買の対象にはならない。そのことがえらく理解できないみたいで、何回も繰り返し説明した。その中で例の88歳問題が出てきたから、こことぞばかりお返しをした。
 88にしか見えないと言われてから、急にトーンが下がって帰って行ってくれたが、あの理解力は90歳代だ。どんな幸運が重なって、どんな環境に許されてあのようなつまらないことが言えるのか分からないが、哀れなものだ。相手に答えを強要したりするものではない。45年薬局にいて初めて見た人だった。牛窓の人か隣の岡山市の人か分からないが、45年間の人との接し方が正しかったことを裏付けてくれるような出来事だった。

 

2022_05_19_水道橋博士×長谷川ういこオンライン対談 - YouTube