幼稚

 「いつからこんなに悪い人間が増えたんだろう、昔もこんなに悪い人間が一杯いたんだろうか?」と思わずニュース番組を見ていて僕が言った。 息子は何となく頷いていたが、妻は「昔も同じでしょう」と言った。「時代劇でも悪代官がしょっちゅう出てくるではないの」と言うのが根拠なのだが、「それはそうだね、実際そうだったからあんな話が出来るんだろうからね」と僕もほとんど根拠がない言葉を吐く。僕の出典は、あの惜しまれつつ打ち切られた水戸黄門で、妻も僕に付き合って見ざるを得なかったから悪代官が余程印象に残っていたのだろう。  現代にも悪代官は多いが、いわゆる庶民の悪事もあまりにも多すぎる。印象以外に根拠を持っていないが、悪意のオンパレードのような気がする。容易に人の命を奪うし、人を傷つける。容易に盗むし、容易に騙す。机の角で頭を打っただけでも痛いのに、比べものにならないくらいの苦痛を与え、懸命に働いて得たお金を口八丁手八丁で奪っていく。もし自分が刃物や鈍器で命を失うほどのダメージを受ければどれだけ苦しいか、もし自分の親や子がの財産を奪われたらどんなに悔しいか、置き換えて考えることが出来ないのだろう。   どの世代もおしなべて幼稚になったのだと思う。想像力を無くし、まるで幼子のようにただただ要求あるのみだ。与えることが出来ずに、奪い取ることしか考えられない。世の高きところで暮らす人間から、その対角線の人間まで、傷つけてまでして得ることに免疫を無くしている。生きるために仕方なく食べ物を盗み、その罪悪感から今懸命に仕事で罪滅ぼしをしている人を知っている。人が嫌がることを引き受けながら働いている。多くの感謝の言葉をもらっている今でも自分を許せなくて苦しんでいる。僕だけに打ち明けてくれた過去も現在も僕にはまぶしすぎるのに、未だ自分を許していない。そうした生き方が讃えられる世の中であって欲しいのに・・・。