感謝

 駐車場の一角に、いや中心に作った小さな畑に紫蘇が盛んに育っている。もう一つ、名前は分からないのだけれどハーブが同じように勢いを保ち続けている。 名前の分からないハーブもとても良い香りがして、かの国の女性が時々やってきては少しちぎって帰る。スープに入れると美味しいのだそうだ。僕は根こそぎ持って帰ってと言うのだけれど、数枚しか持って帰らない。そのハーブは栃本天海堂のセールスの人が駐車場の取得の記念にくれたもので、紫蘇は娘夫婦が植えたものだ。 何を植えてもことごとく失敗したが、この2つだけは枯れなかった。そもそも生命力が強そうなことと、虫が来た形跡が全くないのだ。あの強い香りが虫を寄せ付けないのだと思う。だから放っておいても育つのだ。素人にはもってこいの植物だ。  紫蘇は当初喜んでジュースにしていたが、それもすぐに飽きたのでそれこそ放置されていた。余りにも状態がいいまま毎日目にするのでもったいなくなって、漢方薬に使ってみようと思った。紫蘇は気持ちをほぐす作用があって僕はかなりの量を使用している。折角目の前にあるのだから使わない手はない。無農薬だから安心して使えるし。  そこで生薬として流通している紫蘇(ソヨウ)の作り方を調べた。摘んだ葉っぱを半日天日干にし、その後は陰干しらしい。まず葉っぱを摘むところからしなければならないが、結構茂っていて、摘んでも摘んでも体積は減らなかった。早朝30分くらい頑張ったが、買い物籠半分くらいにしかならなかった。その後駐車場に拡げたビニールシートの上に並べて半日太陽に当てた。時々葉っぱを裏返しながら。その後は夕方までそのままにして置いたが、必要かどうかは分からないが時々葉っぱを裏返し続けた。  数日後の今日、色も香りも今まで仕入れていたものと遜色ないようになったので、どのくらい出来たのか量ってみたら、なんと200gしかなかった。金額で言うと480円くらいだ。と言うことは恐らく僕が費やした時間で割れば、時間給160円と言うことになる。僕は時間給160円で働いていたのだ。  「無駄なことをした」とは思わなかった。勿論紫蘇は買った方が安いが、お百姓さんの生産性の低さを痛感した。もっともプロだからそれらを克服しているのだろうが、ありふれた言葉で言えば「経験して初めて分かった」ことばかりだ。漢方薬を作ってくれている中国のお百姓さんに感謝。食べ物を作ってくれている日本のお百姓さんに感謝。