年の功

 僕は薬剤師だから基本的には薬を渡すだけなのだが、漢方薬を多く扱っているせいで、会話は多い。だが薬のことを喋っても、そもそも僕がそんなに分かっていないので説得力もないし、相手も別に聞きたいとも思わないだろう。ただ年の功で、何となく世の中のことで分かる事象が増えてきた。その知識は薬の知識なんかよりは役に立つことが多い。 ある人が僕に言った。「先生はハッキリ言ってくれるからどうしたらいいか分かる。カウンセリングの先生は、色々聞いてはくれるが答えはくれない」と。恐らくこんな比較が出来るのだから、その人はカウンセラーに相談に乗って貰ったことがあるのだろう。ただ僕みたいに答えをもらえなかったのだろう。僕はたいていのことはハッキリ言う。良いことも悪いこともグレーゾーンは苦手だ。だから今日も良い助言が出来た。

 ある介護施設で働いている青年が、年配の職員から理不尽な扱いを受けた。彼の方が寧ろ大人で、受け流すことによって施設内の秩序を保とうとした。ところがそうした気配りこそが彼自身の体調不良を引き起こし、僕のところに相談に来る羽目になる。そんな時に僕は、彼に堪え忍ぶようには助言しない。教訓めいたことはきらいだ。「もう少し待てばその人が施設に入る年齢になるからそれまで我慢して、是非自分の施設に入ってもらえ。そうしたら虐待しまくりできるじゃないの」と。彼は声を出して笑った。これで彼は治る。