寧ろ僕は逆を考えていた。脳と腸の関係は何となく、体験的にも分かっていたが、全く逆だとは。多くの人も僕と同じような間違った考えを持っているのではないか。 定期的に送られてくる漢方薬の雑誌を読んでいて次のような文章を見つけた。ある大学の教授らしいが、漢方薬の権威でもあるみたいだ。 「・・・元々腸にあった神経が進化の過程で移動して脳になっているので、腸には嘗ての神経が残っているのです。それは腸疾患で鬱状態になることで分かりますが・・・」目から鱗とはこの様なときに使うのか。腸が脳の影響をもろ受けることは体験的に、あるいは患者さん達の訴えで容易に想像が付いていたが、寧ろ主従関係は逆で、腸の影響を脳が受けているのだ。腸こそ脳の親なのだ。  腸を長い間、軽んじてきたような気がした。あまり格好の良い臓器ではないから、まさか脳の生みの親みたいなものだとは想像も出来なかった。従属する物としてなら何となくしっくり来そうだから。どのくらいの歳月を経てその様な移動を果たしたのか知らないが、そんな気の遠くなるような変化を考えれば、我が腸も、いや我が身も可愛くなる。  教授の文章を読んで、多くの無知を五感で補ってきたような気がしたが、その五感がそろそろ怪しくなってきたので、また少しずつ知識を拾い集めようかと思うこの頃だ。