卒業

 なんて光景だ。春のまぶしい光よりも僕にとってはまぶしく見える。  駐車場に作ったおもちゃのような畑に、不要品で作ったベンチもどきが置いてある。そこに西の県からやって来た女性と僕の母が腰掛けてなにやら話をしている。接近して腰掛けて、女性が母の顔をのぞきこむようにして見ているから、恐らくピントのはずれた母の話を懸命に聞いてくれているのだろう。 少し気弱そうなところも見せるが良く喋り、それもとてもゆっくりとした口調で話すからそれだけで癒されそうだ。一目見たときからその善良さには気がついたが、折角の連休も我が家に来て仕事を手伝ってくれている。僕の所に泊まりがけで来る人のトラブルはほとんどの人が共通だが、共通なのは症状だけではなく、気性までがよく似ている。男もこんな人を捜して付き合えばいいのにと思うくらい穏やかで、その女性から発するもの全てにとげとげしさがない。そう言った人と作る空間はとても居心地がよいのだが、えてしてそうした人の魅力に男は気がつかない。  人間らしい「思い込み病」を治すのは難しいが、一杯話をし、いや寧ろ一杯一緒に時間を過ごすなかで当然彼女も単なる、いや、極度の思い込み病ってことが分かる。それを論理的に捉えてと彼女に要求することは難しいが、家族全員、いや夕食をわざわざ作って来てくれたかの国の女性までも感じることが出来なかったトラブルで、自分の日常を矮小にして欲しくない。  明日は僕の友人と彼女の3人で、新見市という県北の町に行く。山深いところの景色を彼女に楽しんで貰いたいが、それ以上に過敏性腸症候群という如何にも作られた症状から卒業して欲しいと思う。