特徴

 傍で見ていたらまるでサプライズが仕組まれたテレビ番組のようだった。淡いピンク色のズボンが代金引換で送られてきたから、当然娘のものだと思っていた。  翌日、偶然かの国の女性二人が薬局に立ち寄った。その中の一人は来週3年間の仕事を終えて帰国するのだが、娘夫婦が思い出作りの為に日曜日に岡山の行きつけの美容院に連れて行ってあげた。その帰り道に寄ったお店で見たあるズボンをとても気に入ったらしくて、帰国するときに履く為に買おうとしたらしい。ところがスマートなかの国の女性に合うサイズがなくて、とても残念がったらしい。それを見ていた娘が、インターネットで彼女に合うサイズを探し注文していたのだ。背の高い女性だが、かの国の人はみんな細くてなんとSサイズだったのだ。 薬局に入ってきたその女性に娘がおもむろにズボンを見せると、それこそ絶句状態で、事態があまり飲み込めなかったようだ。あの店で試着して拳1個入るくらいグスグスの物を娘が買ってくれたと思ったのか、喜ぶ様子は全くなく、友人と顔を見合わせていた。娘が「○○ちゃん、履いてみて」と促すと洗面所に入って着替えてきた。彼女はさっきまでとはうって変わって歓喜の言葉を連発した。「○○、ウレシイ、○○、ウレシイ、○○」かの国の言葉と日本語が繰り返されるから、恐らく同じ意味のことを言っていたのだと思う。元々スタイルのいい女性だから本当によく似合って、故郷に錦を飾るときに履きたくなっても不思議ではないと思った。 少しして落ち着くと今度は「ドウシテデスカ?ドウシテデスカ?」と何故欲しかったものがここにあるのか飲み込めなかったらしく質問を連発していた。娘が、メーカーの名前を調べてSサイズを工場から直接取り寄せたことを説明していた。  実はそのズボンが諦めきれなくて、もう一度店に行ってみるつもりだったらしい。そこまでして欲しかったものが目の前に現れたのだから喜びはどのくらいだろうと思うが、実は僕にはちゃんと分かっている。傍で一部始終を見ていた僕には分かる。本当に彼女が喜んだのは欲しかったズボンではなく、娘の親切なのだ。若いから物欲を否定はしないが、彼女たちは物より人の心を重要視する。これはもう20人くらいのかの国の女性と接してきて良く分かる。拙い日本語で「ココロ、ココロ」といいながら胸を指さす光景に何度遭遇しただろう。 ここにきて娘夫婦がとてもかの国の人達に親切になってきた。若い人の感性を満たすには、やはり若い人が相手するのが理にかなっている。相手が善人に限るが、誰とでも対等の立場で心を通わせることが出来る我が家の特徴は受け継がれていると思った。