聴衆

 僕より恐らく数歳若いだけなのに、恐ろしく幼稚な人間だと思った。ギガだとかテラだとか、そんな怪獣の名前は知らないし、そもそも興味はなかった。僕らの時代はそれこそキングコングゴジラしかなかった。ほとんど同じ年代なのに、ひょっとしたらいい年こいて、ウルトラマンとかウルトラの父とかを子供と一緒に観ていたのではないかと想像した。そんな話に10分も付き合わされたらかなわない・・・と思っていたら、テラはギガの何倍とか言い出したから、怪獣の話ではないのだと思った。 僕より恐らく数歳若いだけなのに、恐ろしくメカに長けている。ギガとかテラだとか、僕が聞いたことがない単位が次から次へと口から出てきて、まるでカタカナ語で話しているみたいに聞こえる。ほとんど同じ世代なのに、十分時代について行っている・・・と言うより、ユーザーとして先頭を走っている。その手の話を始めると永遠に話せるのではないかと言うくらい話題豊富だが、あいにく僕が付いていけない。  同じ時代を生きてこんなに興味に差が出るのかと思わせる人物だ。彼から言わせると超アナログの僕が不思議だろうし、僕から言わせれば、何故あんなに時代の先端を行くメカに強いのか不思議だ。人間に興味を持った僕と機械に興味を持った人の差だろうか。それとも安易に答えを求めれば、生まれつきなのだろうか。  僕は自分でも認める好奇心無い人間だ。それでも何とかなったが、それではなんともならない予感もしだした。遅れをとることに慣れてきたのが自分でも薄気味悪い。一回りも二回りも年上の人達がポケットから携帯電話を取り出すところを目撃したりすると、最早打つ手がないようにも思う。居直りだけがやけに上手になったような気がするが、ギガとかベラとか流ちょうに並べる彼の前で、しっかり僕は聴衆になっていた。