春巻き

 今、かの国の女性二人が2階で春巻きを作っている。なんでも80人分作るというから、かなりの手間だと思うのだが、楽しそうに作っている。「お父さん手伝って」と手許を見ないままエビを小さく刻みながらひつこく言う。かの国の男性は料理を手伝うらしいから、何もしない僕が歯がゆいのだろう。もし僕が手伝えばそこら辺りが血の海になりそうだから遠慮しておく。それに僕もしなければならないことがあって、階下でギターをかき鳴らしている。もう1年くらいほとんど弾かなかったので、弦を押さえる指の豆が無くなっていて、弾いている間中痛い。なんとか明日までに豆を作ろうと1週間なるべくギターに触るようにしていたが、それが裏目に出て水泡が今にも破れそうだ。明日の夜は教会で何曲か伴奏をしなければならないのだが、これではほとんど行をする感じだ。 今日はかの国の女性4人を連れて教会に行ったのだが、3年前まではほとんどの席が埋まっていたのに今は半減状態だ。僕がお世話になり始めた頃とは雲泥の差だ。あの頃お世話になった方々や、いてくれるだけで日頃の緊張感を和らげてくれそうな方や、本当に救いがありますようにとその人のために祈らせて貰うような人達がいなくなった。熱心に通ってきていた人達は、今頃何処でどうして暮らしているのだろうとか、一度来て二度と来ない人や、短い期間だけ足を運んできていた人達はどの様な印象を持って去っていったのだろうとか、寧ろそこにいない人達のことばかりが頭に浮かんだ。 この僕でさえ若手と言えそうないびつな世代構成が、より良い社会を反映できるはずがない。何かを求めて足を踏み入れた場所だが、神への讃美の陰で人間への讃美が軽んぜられる雰囲気には戸惑う。広い御堂のなかで、数人のフィリピン人が伴奏なしで聖歌を歌う。その理不尽に荷担したくない唯一の理由を持って、いやそれでも喜びを持って歌うフィリピン人への讃美の証として明日の夜はギターでお手伝いする。