忍者

 「一緒にいて別に不愉快な想いはしません」と淡々と言ったから、そのせいではない。ただ多くの相談者はそうはいかない。ハッキリと教えてくれる人もあれば、ぼかしてしまう人もあるから、本当のところを見抜く力は必要だ。  体調不良の原因は無数にあるのかもしれないが、それこそ一緒にいて不愉快な人と暮らしている人を治すのは難しい。常に緊張して怒りや哀しみと共に暮らしているのだから、自律神経のバランスは、攻撃傾向に傾いている。傾くと言うよりは、どっぷりと浸かっているかもしれない。およそ血流はバルブを閉められた状態で、末端までは届かないだろう。命を守ろうとして、内部に集まってしまう。それで健康であれと言う方が無理だ。  そう言った対象を持たない人のお世話は簡単だ。現代人を治すのにほとんどが緩める方法をとるが、半端な薬では、その逆の人には到底勝てない。いわゆる歯がたたないのだ。漢方薬を勉強するときに、風邪とか寒邪とか暑邪とか湿邪とか、後何だったっけ、分かったような分からないようなものを病気の原因と習ったが、今ではほとんどが、暑さや寒さなどの環境因子ではなく、人間関係だと思う。強いて言うなら忍者だ。いや僕の造語では「人邪」だ。  人生の第4コーナーに足を踏み入れて近頃感じるのは、何をそんなに力んで生きようとしているのって言うことだ。力んだ結果がこうなら、もっと脱力して、何となく大手を振って、悠々と生きてくればよかったってことだ。地球にとっては誰もが一瞬の塵だ。存在さえ消えてしまうのに何を力んできたのだろうと思う。未練も希望もなく、後にも戻れず先にも進めないなら、道端で大の字になって通りがかりの良き人を待てばいい。