貯金

 こんな感謝のされ方もあるのかと思った。 僕は余程体調不良がない限り、痩せ薬なるものを作ったりしない。漢方薬を駆使すればかなりその目的を達することが出来るが、外見だけの為にその様な漢方薬を飲んでもらうことは出来ない。えてして外見だけの為に飲もうという人は、本来的に移り気で努力などしない人が多いから、断っておけば裏切られることはない。その方が圧倒的にこちらの精神状態にはいい。又時に飲む気もないのに尋ねる人がいる。そう言った人との会話は、全く時間の無駄だからしないことにしている。  この男性がそのどれに当たっていたかは定かでない。ただ、「あの時先生が体には貯金があった方がいいと言われたけれど本当じゃった。あの後すぐに大腸癌の手術をして今はこの通りまともになった」と言った。なるほど以前見たときより随分とスリムになり、ほとんど中肉中背になっている。以前は大酒のせいでビヤ樽みたいなお腹をしていたが、今は人並みだ。  その言葉を聞いて僕はほっとしている。まるで断り文句のように繰り返してきた言葉だから、もうカビが生えているのだが、それ以上に説得力のある言い回しを知らない。まるで知識や技術がないようにとられるかもしれないことを覚悟の言い回しだが、人の体を使って商売はしたくない。脅し商法や神懸かり商法で体の中を薬の処分場にする輩は多いが、家賃ゼロ、小遣いゼロで暮らしている僕には縁遠い。正直を通せる地域性や利用してくださる人達の人柄にとても感謝する。