衝撃

 偶然見ていたテレビのニュースだった。ある女性歌手がロシアの宇宙船に乗り、宇宙から唄を歌うという希望が叶うことになったというニュースだった。インタビューに答えるその歌手の映像のバックである曲が流れていた。何処かで聴いたことがある曲だったが、勿論曲の名前も知らない。ただその曲がとても心の中に響いて、何の曲か知りたかった。変だけれど、ニュース記事からその後、曲にたどり着き、今では毎日何回も聴いている。 最初はその女性歌手の名前をユーチューブで検索してみた。するとあるコンサートがアップされていて、とても美しく又力強く歌が始まり、途中から長身の男性歌手がデュエットで加わった。最初、女性歌手の歌のうまさに驚いたのに、男性歌手はそれ以上だった。それは驚きと感動が絡み合い、お互いより高きを目指すような衝撃だった。  フォークソング一筋みたいな青春だったが、他のジャンルが嫌いなわけではない。多くの素晴らしい曲に巡り会い、多くの曲を好きになった。ただその中で、全く素人の発想で言わせてもらえば、第九の合唱を越える歌はあまりないのではと思っている。何度聞いても飽きない、何度聞いても勇気をもらえる歌なんてそんなにあるものではない。100年単位で輝き続けるものなどそんなにあるものではない。  第九は余りにも特別だから比較の対象にならないが、それ以外なら充分最高峰に位置する資格があるのではないかと思った。専門家の評価は知らないが、二人の世界的に有名なデュエットは圧巻だ。インターネットで調べるとこの二人の歌手は、イタリアのテノール歌手Andrea Bocelli(アンドレア・ボチェッリ)とイギリスのソプラノ歌手Sarah Brightman(サラ・ブライトマン)と言うらしい。聞くところによると二人とも超有名らしいが、恥ずかしながら僕は初耳だった。唄う人のすばらしさもさることながら、この曲を作った人が素晴らしい。ボレロを思わせる太鼓の音が、明日への希望を抱かせる。英語のタイトルが Time to Say Goodbyeだったから、別れの歌かと思っていたが、日本語訳を見てその歌詞の崇高さと曲の希望への高鳴りが良くマッチしていると素人ながらに感心した。  難しいことは必要ない。原題は「Con Te Partiro(コン・テ・パルティロ)」と言うらしいが、言葉の全てを理解できなくても、歌唱力や演奏でどんどん伝わってくる。朝薬局に下りてきてすぐに、そして仕事を終えるときに聞いているが、計算ずくの軽薄な思惑が飛び交う今の世に、虜になるほどの素晴らしい音楽があろうとは。巡り会えたことに感謝。