主客転倒

 何がなにやら全然分からなかった。ただ一つ言えることは「もうけた」ってことだ。だから「ラッキー、ラッキー」を繰り返した。  先月葬式の世話をしたお家の方が、申し訳なさそうな顔で入ってきた。「これよかったらもらってやってください」なんて言うから、申し訳なさそうな顔は必要ないのだが、考えてみるといつもその様な顔をしている。見ると包装はされていないが、香典のお返しに使われたカタログだ。当然我が家はもらっているのだが、なにやら曰く付きのものらしい。曰く付きでも、ひも付きでも、骨つきでもなんでも僕はこだわらないタイプなので単純に喜んだ。  彼の説明によると、親類の方が5万円包んだのに、お返しのカタログの内容がその金額に相応しくないものが届いたとクレームがあったらしい。と言うことは逆に、少ない金額の割には充分すぎるくらいのものが届いたお家があるってことだ。そんなごたごたの処理の中で行き場の無くなったカタログを我が家にくれようと言うのだ。行き場がないものなら何でも頂戴の僕だから喜んでいると、その方が僕の妻に「後ろの方のページに豪華ホテルの宿泊券が載っているから旦那さんと旅行に行ってください」と勧めた。妻は豪華なカタログをもらうことに抵抗があったのか「では、○○さんとうちの主人で行ってこられたらいいが」と逆に彼に勧めていた。「男二人ではおかしいでしょう」と彼が返している間に僕は最初の方からページを捲って商品を見ていた。どのカタログもそうだが、綺麗に撮られているから一見すると欲しくなるようなものばかりだが、実はもう普通の家庭なら無いものなんてほとんど無いのだ。5万円の半額返しなら2万5千円くらいだなと浅ましいことを考えながらカタログを見ていた僕は何となく、商品達が2万円を超すもののようには見えなかった。体重計や簡単な電磁調理器などは数千円で買えたような記憶がある。その気で見てみると、他の商品も恐らく数千円程度のものばかりだった。ふと気がついて宿泊プランのホテルをいくつか眺めていると、なんと昼食と入浴のセットだった。「なんじゃこりゃあ、昼ご飯と風呂じゃないの」と大きな声を出したので、その方も妻ももう一度目を凝らして確認していた。  カタログに載っているホテルは有名なものばかりで、東京や京都のものだった。昼ご飯を食べに行くだけで一体どのくらいの旅費を使えばいいのだ。「これ、うちが貰っているカタログと同じじゃないの。5000円コースではないの?特上にぎりを貰ったと思っていたのに、ほとんど並じゃないの」と、ただでもらった方が威張っている。「ほんとじゃ、どこでまちがったんじゃろう」とカタログを余分に一つあげた方が恐縮している。でも実はこの事実が判明したときに3人で腹筋が痛くなるほど笑ったのだ。それこそ涙が出るほど笑ったのだ。「お父さんに近所のよしみで親切にしてあげていたから、天国のお父さんが僕にプレゼントをくれたんだ」何て勝手なことを言っていたが、亡くなったばかりの人をネタにその息子さんと大笑いした。  お父さんとばかり気があって親しくしていたが、同じDNAを受け継いでいることが葬式を通して分かり、まるでお父さんと同じのりで話が出来る。「高額なカタログだと言って嘘ついたら怒るで!」